気持ちは後から付いてくる【言葉が足りないとサルになる/岡田憲司】

言葉が先、気持ちは後。

言葉で心を動かす人たち

昨年の夏、多くの人たちが言えずにいたことを、選挙という公の場で言い続けた団体があった。

ここ数年僕たちの心の中に引っかかっていたモヤモヤを、はっきりと言葉にして世の中に訴えている大人たちがそこにはいた。

彼らの言葉に耳を傾けた多くの人々の心が動いた結果、その団体は国政政党になった。

人々は怒っていた。言いたいことも言えない、聞きたいことも聞けない、無意味な衛生品の着用や新薬の投与を強制されることに、ずっと疑問を感じていた。

それを堂々と言える日を、堂々と言ってくれる人を、ずっと待っていた。そして現れた彼らの言葉が、世界を変えた。

この出来事が、政治に絶望し、政治と距離を置くことを辞めるきっかけになった人は多いだろう。無関係ではいられない政治に興味が持てるだけで、人生はより充実する。「推し」ができることで、生きる希望が湧いてきた夏だった。

言葉が足りない僕ら

そんな個人の人生や世界さえも大きく変える、「言葉」の持つ力について語られているのが本書だ。

出版された2010年、世の中には言葉が足りない若者が溢れていた。本書で紹介されている具体的な事例が、当時の自分にも当てはまり過ぎて嫌な気持ちになる。

言葉をたくさん使うという経験が乏しいまま年齢だけ重ねてきた今の僕を、言葉をたくさん使ってきた先輩から見た感想が、本書の第1部で語られている。とっても恥ずかしい。

第2部では、会社で働く女性を例に、「言いたいけど言えない」状況が生々しく語られる。日本のヤバい(まずい、危険な、よろしくないという意味)現状は、言葉が足りない若者だけでなく、日本社会全体の仕組みによってもたらされているということが、自分自身の経験とも重なり、痛いほどよくわかる。

1部と2部を読んでかなり絶望的な気持ちになってしまうのだが、最後の3部を読むことで救われる。言葉を使うことによってもたらされるもの、言葉を使うことでどれだけ素晴らしいことが起きるかが語られているからだ。

気持ちを言葉で表現しようとするのではなく、言葉を使ってからその気持ちになる。初めは何を言っているのかさっぱりわからなかったが、繰り返し読み、実生活で少しずつ試してみるとよくわかった。言葉を使えば使うほど、人生は明るく楽しくなるという著者の意見に僕は大賛成だ。

言葉が気持ちをつくる

思いを言葉にするのではなく、言葉が人間の心を形成する。言葉が先、感情は後。

「言葉にできない」や「うまく表現できない」で終わらせるのではなく、「とりあえず言葉にしてみる」、「うまく表現する言葉を知らなければ調べる」という癖をつければ、僕たちはもっと豊かに感情を表現できるようになる。

自分の気持ちを言葉で表現するために、まずは大量の言葉を自分の中に詰め込んでおいて、遡及的に「あの言葉はこういう気持ちの時に使うのか」と気づくことがとても大切だ。

言葉は人間の心をつくる。心は人間の行動をつくる。人間の行動が世界をつくる。言葉で世界は変えられる。

まずはたくさんの良い言葉、美しい言葉に触れる。それを使って気持ちを表現する。少し違うと思ったらまた新しい言葉に触れる。そしてまた気持ちを表現してみる。これを繰り返す。豊かな人生の始まりだ。

さあ、今すぐかみさんに「愛してる」って言おう。言うべきだ。言えって。

楽しいと言えば楽しくなる

僕たちは一人一人、それぞれ別の世界を生きている。心の捉え方次第で、世界は大きくその姿を変える。自分の心でつくりあげた悲しみ、不安、絶望は、言葉によって、喜び、期待、希望に変えることができる。

たくさん言葉を覚えて、たくさん言葉を使って、たくさん気持ちを表現し続けていけば、きっと世界は楽しくなる。そう言うとそんな気がしてくる。

心が動いたあの夏から、僕は人生が楽しくてしょうがない。そう言うと本当に楽しい気持ちになってくる。

なりたい気持ち、なりたい自分を、まずは言葉にしてみよう。そうなれる気がしてくるから。

言葉にして、その気になって、行動し続けよう。最後の最後の最後に、きっと結果が付いてくる。

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