肝心なことは、人間の立派さがどこにあるか、自分の魂で知ることだ。
強く惹かれるそのタイトル
スタジオジブリの最新作「君たちはどう生きるか」。そのタイトルに強く心惹かれるのは、きっと自分の中に、残りの人生をきちんと生きたいという気持ちがあるからだろう。
公開日が気になって調べているうちに、同じタイトルの小説があることを知った。映画の原作ではないようだが、毎日自分に問い続けている「いかに生きるべきか」という問いに対する答えのヒントがあるかもしれないと思うと、読まずにはいられなかった。
そこには、立派に生きるためのヒントがちゃんと書いてあった。
軍国主義下、少年少女へのメッセージ
本書が書かれたのは、日中戦争が始まった1973年。
言論や出版の自由がいちじるしく制限されていたこの時代に、次の時代を背負う少年少女たちに対して、自由で豊かな文化、人類の進歩についての信念を伝えたいという願いで刊行された全16巻の「日本少国民文庫」。その最終巻が「君たちはどう生きるか」だ。
戦争の暗雲が世界中を覆っていたこの時代のことを、僕たちは知らない。だがこの本に書かれているメッセージは、現代を生きる僕たちにも十分伝わる。
どんな時代でも変わらない「正しい生き方」。その生き方について自分なりに考え、完璧は無理だと知りつつも、あえてそれを目指すことにはきっと価値がある。
50年前の若者たちから学ぶ精神性
主人公は、コペル君というあだ名の中学二年生の少年だ。
コペル君は、自分の周りで起きる様々な出来事を、近所に住む叔父さんに話す。叔父さんは、それを聞いて考えたことを自分のノートに書き記す。読者は、コペル君の日常と叔父さんのノートを交互に見るという構成になっている。
読み出してすぐに気づく、今の僕よりもだいぶ若い年齢である叔父さんの精神性の高さ。その広い知識と深い思考には、全く歯が立たない。
それだけならまだしも、僕の精神性は、中学二年生のコペル君にも敵わない。当時の若者の精神性が今と比べて圧倒的に高かったと思わざるを得ない。
本を通して戦前あるいは戦中の日本人の精神に触れ、今から少しでもそこに近づくための良いきっかけになるだろう。コペル君の純粋さと叔父さんの聡明さを兼ね備えたような素敵な大人に、今からでもなりたいと僕は思う。
大人は自分のしたことに責任を持つ
物語の中でコペル君は、友だちに対してとてもすまないという気持ちになる経験をする。後悔と懺悔の気持ちで、何日も寝込んでしまう。
自分の勇気が足りず、友達を助けられなかった。自分の身の安全のために、嘘をついた。誰しも1つくらいは心当たりがある経験ではないだろうか。コペル君の気持ちは痛いほどよくわかる。
謝っても許してもらえないかもしれないという不安から、何もできず一人で悶々としているコペル君に対し、叔父さんは言う。
「ここは勇気を出さなけりゃいけないんだよ。どんなにつらいことでも、自分のした事から生じた結果なら、男らしく堪え忍ぶ覚悟をしなくっちゃいけないんだよ。」
「また過ちを重ねちゃあいけない。コペル君、勇気を出して、ほかのことは考えないで、いま君のすべきことをするんだ。過去のことは、もう何としても動かすことは出来ない。それよりか、現在のことを考えるんだ。いま、君としてしなければならないことを、男らしくやってゆくんだ。こんなことでへたばっちまっちゃあダメだよ。」
君たちはどう生きるか。その問いに対する僕の答えは、この叔父さんの言葉から拝借させてもらうことにする。でもただ言葉を借りるだけではダメだ。ちゃんと自分の魂に聞いた上で言う。
勇気を出して、いま僕としてしなければならないことを、僕らしくやってゆく。
あなたは、どう生きますか?
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