日本語は美しい。
日本語という宝石の目録
日本の学校で、かつて行われていた素読。
意味はわからずとも、まずは声に出して覚えることで、美しい言葉を自分の身体に刻み込む。
成長していく中で意味を知り、刻み込まれた言葉たちはより美しく輝きを増していく。
日本語は宝石だ。
長い長い日本の歴史の中で作り出されてきた言葉の宝石たち。知らずに生きるのはあまりに勿体無い。
この中にはきっと、一生大切にできるものがあるはず。
本書は、そんな日本語の宝石たちの目録だ。
至極の日本語を知り、唱え、身体に埋め込むことで、きっと人生は豊かになる。
美しいリズム
せり なずな ごぎょう はこべら ほとけのざ すずな すずしろ これぞ七草(春の七草)
なんと美しい律動だろうか。
せりなずな/ごぎょうはこべら/ほとけのざ/すずなすずしろ/これぞ七草。
/で区切って何回か声に出して読むともう頭から離れない。あなたも今日から春の七草を知っている側の人間だ。
萩の花 尾花 葛花 瞿麦の花 女郎花 また藤袴 朝貌の花(秋の七草)
藤袴の前の「また」の渋さがたまらん。
はぎのはな/おばなくずばな/なでしこのはな/おみなえし/またふじばかま/あさがおのはな。
春の七草を知っている相手に対しては、秋の七草で追撃だ。
身体に埋め込んだ春秋の十四草は、日常会話を華やかに彩ってくれる。
美しい情緒
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり(平家物語)
切ない。だがそれがいい。
圧倒的な掴みのセンス。一行でその世界観に心が持っていかれる。沙羅双樹の花の色、何色かは知らないけれどカッコよすぎる。
ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず(方丈記/鴨長明)
みんな大好き無常感。
人は儚い。だからこそ尊く、愛おしい。今日も全てに感謝して生きよう。
国破れて山河あり 城春にして草木深し(春望/杜甫)
丸暗記必須。
無常感をとことん味わうために、杜甫の春望を丸暗記して、夕暮れに涙しながら暗誦しよう。
美しい叙情
まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき(初恋/島崎藤村)
ああ思春期。
もう二度と取り戻せない、あの頃の出鱈目な若さ。よしハイボールをもう1杯飲もう。
幾時代かがありまして 茶色い戦争ありました(サーカス/中原中也)
さあ一緒に、「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん。ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん。」
本書をきっかけに初めて知った。中原中也はとってもハンサム。詩人でハンサム。凄まじいステータスだ。
海の中では何万の 鰮のとむらい するだろう(大漁・金子みすゞ)
本書の中で著者は、金子みすゞの作品を発掘した矢崎節夫の言葉を紹介している。
みすゞの童謡は、小さいもの、力の弱いもの、無名なもの、無用なもの、この地球という星に存在するすべてのものに対する、祈りのうた。
僕たちは、自然から命をもらいながら生きている。僕たちが大自然にできることは、祈ること。
日本語を知り、貯め、使い、遺す
声に出して読む、美しい日本語。
一部は知っているけれども全文は知らないし、作者についてもよく知らない。
そんな日本語の宝石の数々を、ぜひ本書で知り身体に埋め込んでほしい。
僕たち日本人は、古くから愛され続けている美しい日本語を知り、身体に埋め込み、輝きを味わい、未来に遺すべきだ。
自分で輝きを楽しむも良し、誰かと美しさを語り合うも良し、大切な人にプレゼントするも良し。
日本語の宝石をコレクションして、人生を豊かにしよう。
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