星という星がぜんぶ、やさしく笑う【星の王子さま/サン・テグジュペリ】

別れから思い描いて出会う練習を。

読まずには死ねない名作

「星の王子様」と「サン・テグジュペリ」。この名前はどこかで聞いたことがあるはずだ。

どこかの外国の物語でしょう。読んだことないし読む予定もないかなあ。

ちょっと待ってくれ。そのまま読まずに死ぬのはあまりにもったいたい。

断言する。世の中で名作と呼ばれる作品は見て、触れて、感じておかなければ人生の損だ。何歳の時でもいい。早ければ早いほどいい。

もしまだこの本を読んだことがなかったら、ぜひ今日、この本を買うために500円、読むために1時間かけてほしい。きっと素敵な体験になることを約束する。

できれば何度も読み返してほしい。涙でぐしゃぐしゃになったあなたと、一緒にお酒でも飲みながらこの本の良さを語り合いたい。

著作は著者の人生そのもの

本は著者の人生と一対だ。

本を開き、その世界に没入して読み終えた後は、作者や作品への愛情がたっぷりの巻末解説が待っている。余韻に浸れる大好きな時間だ。

そこで著者の生い立ちや時代背景を知る。その上でもう1度読み返すと、その物語がより味わい深いものになる。それは今の本よりも古い本の方が濃厚だ。

本書の著者もそうだが、名作の作者の人生は波瀾万丈であることが多い。安寧の中では成し得ない経験、到達し得ない場所、抱き得ない希望と絶望。多くの人の心を動かすのはいつだってそんな「私にはあり得ない」人生を送った人の物語だ。

著者が当時思い描いた過去、現在、未来を全部ひっくるめた言葉が、時代を超えて読者に語りかける。「僕はこう生きた。君はどうだい?」と。

責任を持って絆を結ぶ

「星の王子さま」の魅力はたくさんあるが、中でも挿絵とセリフが最高だ。

挿絵はやさしくやわらかく物語を彩り、まるで夢の中にいるような気持ちにさせてくれる。

セリフは短いのに深く、大事なことを思い出させてくれる。酒びたりの男の「恥じているのを忘れるため。」と「飲むことを恥じている!」もとても良いが、一番好きなのはやっぱりキツネだ。

「なつく」の意味を尋ねた王子に対し、キツネは答える。

「ずいぶん忘れられてしまっていることだ。それはね、絆を結ぶということだよ。」

「なつかせたもの、絆を結んだものしか、ほんとうに知ることはできないよ。」

「なつかせたもの、絆を結んだものには、永遠に責任を持つんだ。」

キツネは別れ際、王子に秘密を教える。

「ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない。」

出会いがあれば必ず別れがある。僕たちはそのことを知っている。知っているのに、なつかずには、絆を結ばずにはいられない。

人は別れるために出会い、死ぬために生まれてきた。だからこそ、永遠に責任を持つ覚悟を持って出会い、別れなければならないとキツネは教えてくれる。

なぜ生きるのか?生きる上で一番大切なことは何か?それを知るために、僕たちは今日も絆を結ぶ。死ぬまで答えはわからないかもしれない。それはきっと目に見えないし、言葉にもできない。

別れから思い描く

本書に一貫して描かれているテーマは「別れ」だ。

金色の髪の王子は、バラと別れ、様々な星の住人と別れ、ガス灯の点灯人と別れ、キツネと別れ、最後は「僕」に別れを告げる。

読者である僕自身、これまでたくさんの人と出会い、永遠に責任を持つことなく別れてきた。もちろんすべての出会いに永遠の責任を持つことは不可能だから、後悔はない。

でももし、これからの人生で永遠に責任を持ちたいと思える出会いがあれば、そのつもりで絆を結ぼう。そんな絆を結ぶことができたらこれ以上の幸せはない。

もしかしたら、気づいていないだけですでに出会っている人と絆を結べている可能性がある。別れの時にしれに気づくのはとてももったいない。

さらにもしかしたら、今周りにいる僕を必要としてくれている人全てが、僕が永遠に責任を持つべき絆を結んでいる人なのかもしれない。

ある日突然来る別れの時に、結んだ絆を後悔させないように別れる責任が僕にはある。だから、素敵な人になろうと思う。そう決めた日から、星という星が僕にやさしく笑っている気がする。

出会った瞬間から、別れを思い描いて相手に接する。それを続けたら、きっと素敵な人になれる気がする。

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