苦しみを受け入れる準備を【シン・仮面ライダー/庵野秀明】

備えあれば憂いなし。

シン・○○への圧倒的な信頼

シン・○○は予備知識ゼロで観てもめちゃくちゃおもしろい。ゴジラとウルトラマンの経験から立てた仮説は、シン・仮面ライダーで実証された。

同時に、オリジナル作品への愛着があれば楽しさは何倍も増えるという仮説もきっと正しい。あいにくまだ検証するチャンスに巡り会えていないが、原作に対するオマージュに気づけたりすると最高の気持ちになれるんだろう。シン・ジュウレンジャーとシン・ターボレンジャーを待望する。

シン・仮面ライダーでは、集団よりも個人に焦点が当たっているように感じた。シン・ゴジラやシン・ウルトラマンより登場人物が少ないぶん、一人一人の内面が深く描かれている。

その内面の多くを占めるのが苦しみだ。愛する人の理不尽な死といったような人生の苦しみに相対し、もがき苦しむ登場人物達から、人生の苦しみとの付き合い方を学ぶことができた。

苦しみは消せない

人生とは苦しみの連続だ。僕たちは常に生老病死の苦しみと共に生きている。

それに加えて、突然受け入れ難い深い苦しみに遭遇することもある。緑川イチローと本郷猛が遭遇した愛する人の唐突で理不尽な死。想像を絶する苦しみだ。

緑川イチローはその苦しみに対し、人類の滅亡という解決を試みる。圧倒的な力を手に入れ、組織的に人類を救済(殺戮)していこうとする。

人間の苦しみを根本から取り除くためにとったこの方法は、逆に多くの新たな苦しみを生んでしまい、結果人間から大きな反発を受けることとなる。

力づくであらゆるものを規制あるいは禁止することは、人間の幸福にはつながらない。人類の歴史を見ても明らかな事実なようだ。

決め手は人数

一方で、同じく家族を理不尽な暴力で奪われた苦しみを持つ本郷猛は、愛する人を守るために力を手に入れ、その力で緑川イチローに立ち向かう。

力を使う目的と対象が相反する両者の戦いは、愛する人を守りたいという目的を持つ本郷猛の優しさに心が動かされた一文字隼人の存在が決め手となり、決着を迎える。

強い正義と強い力を持つ者同士の戦いが迎えた結末は、第三者の存在によって決まった。成し遂げたいことが大きければ大きいほど、多くの人々の心を動かすことが必要だ。数で相手を上回ることができれば、一見勝ち目の薄い戦いにも希望が見えてくる。

より多くの人々の心を動かした者が、より大きく歴史を動かす。今はまだ小さな力でも、これからより多くの人々を巻き込んでいくことで時代を動かす大きなうねりになる可能性がある。いざ巻き込まれた時に動じないよう、時代の変化は見続けていなければならない。

受け入れる準備を

緑川イチローのような人類全てを相手にする力も、本郷猛のような仮面やスーツも持たない、僕のような凡人が大きな苦しみに突如襲われたら、どうすればいいのか。

強い力を持つ2人が迎えた結末を踏まえた上でとれる戦略は、受け入れることだろう。

苦しみに対してまともに立ち向かうには力が足りない。きっと反動で身がもたない。

苦しみを完全に忘れ、逃げ切ることもできそうにない。そもそも生きることは苦しみとセットである以上、自ら死を選ぶしかない。その勇気はまだ僕にはない。

となればもう受け入れるしかない。そのためにはまず、人生は苦しみの連続であり、大小様々な苦しみはいつ自分の身に降りかかるかわからないという事実を受け入れることから始めなければならない。

未来という苦しみは向こうから来るものであり、僕はそれを受け入れるしかない。この前提に基づいてあらゆる準備をしておくことが必要だ。

苦しみを受け入れるということは、寿命が尽きるまで生き続けるということだ。生き続けるためには、幸福でないと難しい。幸福であるためには、自分の魂を磨き続けなければならない。魂を磨くとは、人格を高めていくことであり、誰かのために尽くすことだ。

苦しみを受け入れながら生きるためには、緑川ルリ子のように用意周到に準備しておく必要があるようだ。

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